後悔なく

『神々の山嶺』 夢枕獏

 

これまでの読んできた本の中でベスト3、いや確実にベスト5には入る本。

読後の20代後半、ひたすら山を登り始めた。すべて単独行で高い山だけをがむしゃらに無謀に登っていた。

 

楽しい思い出はない。頂上にも5分といなかったことも多い。毎回「何で来たんだろう?」「今回でゼッタイやめよう」と悔やむほどに、体力、精神の限界まで突き詰めて登った。暴風雨で稜線からテントごと落ちるかと思った夜も、目の前を稲妻が横切ったことも、疲れすぎて幻聴を聞いたことさえある。

 

そんな世界に足を踏み出させた一冊の本。

それが今回、映画化された。

思い入れのある本の映画化だけに、観るのに躊躇もある。

 

本と映画。

もちろん、上下2巻の細かな描写、圧倒的な情報などのすべてを限られた時間の中で映像化するのは難しい。原作を読んでから観る映画は、結果的に期待外れに終わってしまうことも多い。

 

一方で、見たこともない景色や情景は、文章だけからは想像すら出来ない。それを迫力ある映像と音楽で見せてくれる。目にすることで初めて解ることもある。

 

そう自身に言い聞かせて映画館に足を運んだ。もっとも「知らなかったことにする」という“逃げ”の選択肢はなかったのだけど。

 

結論。

惜しい。勿体ない。

ヒマラヤの迫力ある映像も、阿部寛演じる主人公のイメージも合っている。

ただちょっと「伝えきれていない」。

ストーリーの背景にある、熱く強い思い気持ちが届ききっていないのがもどかしい。原作を知っているから、なのか、知っているだけに、なのか。

 

本を読まずに、映画で初めて観た人はどう感じるんだろう?
ちゃんと伝わってるのだろうか。伝わっててほしいと思うけど。。。

 

また、原作を読んだことある人。まぁ、観てみてください。
どうでしたか? 教えてください。

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おっと、ここは「農業」HPだった。。。

すっかり映画レビュー(自分語り付き)になってしまいましたね。

すでに長文になっていますが、ここから強引に(?)農業話へつなげます。

今冬にも雪が何度か降りました。

特に先日も書きましたが3月入ってから何度か重く湿った大雪がありました。

10センチも積もるとなればその都度、大中小の3つのビニールハウスの雪下ろしに出動します。降り続ければ、真っ暗な夜中にも雪下ろしに行きました。

 

他の人?他のハウス? そこまでやってません。

ハウスには積雪対策で、冬のこの時期だけ柱が立ててあるので、ちょっとやそっとの雪では潰れません。よっぽどの大雪でない限り、そんな小まめな雪下ろしは必要ないのです。

自分のハウスも柱を立ててます。今冬だけでも、のべ十数回出動した雪下ろしも実は行かなくても大丈夫だった可能性は高い。でも行きました。

 

なぜか?
それが今回の映画を見て思い出されました。(ようやく話が繋がります...)

 

原作のなかで、極限の世界に臨もうという主人公の持ち物リストが描かれます。芯を抜いたトイレットペーパー、表紙を破ったノート、柄を切り落としたプラスチックのスプーン、わざと切り詰めて短くした鉛筆、などなど。

 

出来るだけ荷物を軽くという理由(これは映画も描かれていた)と、原作で書かれているのはそれ以上の思いです。それは、究極の限界に追い詰められたとき「もっと出来ることがあったのではないか」という後悔や迷いを生じさせたくないから、と。

 

この描写、20年ちかく前に読んだ瞬間に衝撃を受け、その後もずっと心に残っていた印象的な場面。それが今回繋がりました。

 

自分は弱い人間なので、もし万が一、雪でハウスをつぶしてしまった場合、きっと立ち直れないほどのショックを受けると思います。再建?いやいやもう嫌だよ、、、となってしまうと思います。

 

中古の資材を集めて建てたハウスだから新品より強度的に弱かったり、歪んでいるところに変な力が集中してしまうかもしれない。そんな技術的な心配ももちろんですが、それ以上に自分の気持ちが一番に弱く、潰れてしまうと思うのです。

 

大雪で潰れてしまうこともあるかもしれない。

でも、そうであっても後悔することなく、「やれることはすべてやった」と言えるようにしておきたい。だからたとえ、大した雪でなくても、「そこまでやらなくても大丈夫なのに」と周りの人に嘲笑されようが、万が一の可能性があるなら備えておきたいと思うのです。

 

あぁ、これはまさに「神々の山嶺」精神なんだな、と。この本から得た気持ちなんだな、と。本から、経験から、それまでの人生から、、、いろいろなことを経て、今があるんだな、と。

さらに思いを突き進めれば、既に後半に突入している、人生残りの時間。悔いなく、やれることはやっていきたいな、と思ったのでした。。。

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・・・と、そんなところまで改めて思いをはせるに至るキッカケとなった、この映画。とても良かったと思います、いろいろな意味で。。。